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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)2588号 判決 1950年3月14日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人牛島定の上告趣意は、末尾に添えた書面記載のごとくであって、これに対する当裁判所の判断は、次の通りである。

記録を調べてみると、原審は、昭和二四年四月七日の第一回公判期日を弁護人牛島定からの千葉地方裁判所における民事事件弁論のための差支による公判期日変更願により延期し、第二回公判期日を同年五月二六日に指定した。ところが同弁護人は右期日においても千葉地方裁判所における他の刑事事件弁護のための差支により公判期日の変更を申請し、原審は更に右期日を変更して第三回公判期日を同年六月一六日に指定した。しかるに、右第三回公判期日についても同弁護人は千葉地方裁判所における他の刑事事件弁護のための差支により右期日の変更を申請した。そこで原審は、弁護人の公判期日変更申請を却下して、同弁護人不出頭のまゝ本件控訴事件の審理を進め、即日結審して同年六月三〇日に裁判を宣告する旨を告げ同日原判決を宣告した。そして被告人本人は右いずれの期日にも適法な召喚を受けながら無届で出頭しなかったのである。

本件は、旧刑事訴訟法の適用される事件であり、旧刑訴法第四〇四條によれば、被告人が公判期日に出頭しないときは更に期日を定めその期日にも被告人が正当の事由なくして出頭しないときはその陳述を聽かないで判決することができるのである。本件において、被告人は原審のいずれの期日にも無届で出頭しないのであるから、右規定の適用される場合であることは言うまでもない。さて、論旨は、弁護人が公判期日に出頭できない正当の理由を証明して期日の変更申請をしたのに、原審がこれを却下して弁護人不出頭のまゝ審理判決したのは、旧刑訴法第四一〇條第一一号にいう「不法ニ弁護権ノ行使ヲ制限シタル」ものであると主張し、憲法第三七条第三項、刑訴應急措置法第四条等を引用して、不法に弁護権の行使を制限することは憲法の示す基本的人権の保障に背くというである。

憲法が刑事被告人に弁護人を依頼する権利を認め、弁護権を尊重していることは所論の通りである。しかし憲法はまた、刑事事件につき裁判が迅速になされることをも要求しているのである。それゆえ、裁判所は刑事事件の公判期日を弁護人の度重なる変更申請によって、際限なく延期しなければならないものではないのである。たとい、公判期日の変更申請が弁護人の他の裁判所における訴訟事件立会のための差支によるものであっても、それが度重なるにおいては、かゝる事由は期日の変更を求める正当な理由とはならない。むしろ、弁護人においては他の裁判所における訴訟事件につき期日の変更を求める等適宜の方法をとるべきであり、もしそれが困難な場合には、被告人において他の弁護人を依頼する等の措置に出で、同一刑事事件の度重なる公判期日の変更申請を回避すべきものである。そして、弁護人において正当な理由がなく公判期日に出頭しないときに、その弁護人の立会なく事件の審判を行っても、それは不法に弁護権の行使を制限するものでないことについては、すでに当裁判所の判例に示すところである(昭和二四年(れ)第一〇六六号同年一二月二二日言渡第一小法廷判決)。されば、原審が本件につき冒頭に述べたような事実関係の下に弁護人の公判期日変更申請を却下して弁護人の立会なくして事件の審判を進めたことは正当であって、所論のように不法に弁護権の行使を制限したものではない。なお、論旨における憲法違反の主張は、不法に弁護権の行使を制限したことを前提とするものであるから、すでにこの点が否定された以上、問題とする余地がないのである。

よって、本件上告を理由ないものと認め、旧刑訴法第四四六條に從い、主文の通り判決する。

以上は当小法廷裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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